Necchi社の足踏みミシンを紹介します。以前一緒に働いていた老サルト職人から譲り受けたもので彼の母親が戦後1950年代に購入されたものだそうです。ここイタリアでは古いミシンはアンティークとしても持て囃されています。
ミラノ郊外にあるPavia(パヴィア)という町で1880年にAmbrogio Necchi氏が鉄工所を始めます。その約40年後1919年に息子のVittorio氏が父の鉄工所でミシンを作り始めたのがきっかけでNecchiミシンが誕生しました。
その10年後にはNecchi社のミシンはイタリア全土でブームとなり、第二次世界大戦後にはイタリアだけでなくヨーロッパ全土にその名が知られ一日の製造台数が1000台を超えるほどでした。
60年以上大切に扱われたためその時代の付属ケース、説明書もきれいに残っています。
ボビンはすこし錆ついていましたが、ミシン本体のボビン巻きの機能はしっかり役割をはたします。
今まで働いた全てのサルトリアでも足踏みミシンが使われていました。足踏みミシンに一度慣れてしまうと、自動ミシンでは上手く縫えなくなります。縫い目にもテンションが掛かりにくく柔らかい仕上がりになります。
ミシンを譲ってくれた老サルト職人は最後に目に涙を浮かべ私に言いました。『このミシンでたくさん服を作ってください』と。すごく深い思いを感じました。
そして、説明書の裏に“una macchina necchi se ben adoperata dura una vita e più"と書かれています。”ネッキのミシンは正しい扱いをすれば、一つの人生、それ以上に長持ちします”
今後何十年と服作りに専念し、次の世代までこのミシンが受け継がれれば幸せです。
ミラノのサルト 井上 勇樹