2014年3月28日金曜日

La macchina da cucire Necchi

Salve!

 Necchi社の足踏みミシンを紹介します。以前一緒に働いていた老サルト職人から譲り受けたもので彼の母親が戦後1950年代に購入されたものだそうです。ここイタリアでは古いミシンはアンティークとしても持て囃されています。 

 ミラノ郊外にあるPavia(パヴィア)という町で1880年にAmbrogio Necchi氏が鉄工所を始めます。その約40年後1919年に息子のVittorio氏が父の鉄工所でミシンを作り始めたのがきっかけでNecchiミシンが誕生しました。 
   その10年後にはNecchi社のミシンはイタリア全土でブームとなり、第二次世界大戦後にはイタリアだけでなくヨーロッパ全土にその名が知られ一日の製造台数が1000台を超えるほどでした。







 60年以上大切に扱われたためその時代の付属ケース、説明書もきれいに残っています。


 ボビンはすこし錆ついていましたが、ミシン本体のボビン巻きの機能はしっかり役割をはたします。


 
 今まで働いた全てのサルトリアでも足踏みミシンが使われていました。足踏みミシンに一度慣れてしまうと、自動ミシンでは上手く縫えなくなります。縫い目にもテンションが掛かりにくく柔らかい仕上がりになります。


 

 ミシンを譲ってくれた老サルト職人は最後に目に涙を浮かべ私に言いました。『このミシンでたくさん服を作ってください』と。すごく深い思いを感じました。

 そして、説明書の裏に“una macchina necchi se ben adoperata dura una vita e più"と書かれています。”ネッキのミシンは正しい扱いをすれば、一つの人生、それ以上に長持ちします” 
 今後何十年と服作りに専念し、次の世代までこのミシンが受け継がれれば幸せです。


ミラノのサルト  井上 勇樹

2014年3月18日火曜日

Il cappotto ulster

 Salve!

アルスターコート完成。

イタリアではウルステルと呼ばれています。

語尾の”R”は巻き舌でしっかり発音されます。
例、Harry potter (アリーポッテル)Spider-Man(スペイデルマン)などもそうです。







このコートの特徴はやはりバックスタイルです。中央に走るPiegone(ピエゴーネ)と呼ばれる巨大プリーツ、Maltingara(マルティンガーラ)と呼ばれるバックベルト、この二つがUlsterの魅力を引き出します。





冬の厳しい寒さにもラペルを閉じれる様に考えられています。





 ウルステルコートには思い出がありまして、ちょうど10年前、初めて目にした時、一瞬で一目惚れしてしまいました。そして、師匠(マエストロ)で、ミラノでは私の父親でもあるコロンボ氏に無理をいってお願いし、このコートの仕立ての指導を受け、自分自身に仕立てました。その中にはたくさんの隠し技があり、今でもその時のメモとコートを大事に持っています。

 多くのお客様もウルステルコートの魅力に惹かれ注文されます。毎年、何着か仕立てるのですが、ジャケットとは違い、たくさんのディティールがあり、そして、襟、ラペル、ポケットには、Doppio puntino(ドッピオ プンティーノ)と呼ばれるダブルのハンドステッチが施され、かなりの仕事量になります。

 ウルステルコートはTight(タイト)燕尾服と同様イタリアではCapolavoro(カーポラヴオーロ)傑作と称され、職人達にとっても特別なアイテムです。
ミラノのサルト  井上 勇樹


2014年3月10日月曜日

Le canape

Salve!

 今日は芯の説明をします。上着の前見頃の中には必ず芯が据えられています。
ミラノでは、Canape(カナペ)と呼ばれ、前見頃の土台となる芯です。イタリア語で麻という意味ですが、最近では麻100%の芯地はコート用にしか使われません。ジャケットにはキャメル、麻、毛、ビスコース繊維などの混合素材の芯地が主に使われています。もう一つ、Crine(クリーネ)と呼ばれているバス芯。馬の鬣と尻尾を組み合わせて作られた少し強度とハリがある芯で胸増芯として使われています。
 それぞれのサルトリアによって使う芯地は違っていますが、最も大事なのは必ず、どの芯地も一晩以上、水に漬け収縮させる作業は、どのサルトリアでもかわりません。



 イタリアではお客様の体型、胸のボリューム感、肥満体など、いろいろな事を考慮し一着、一着、芯地をカットし、ダーツをとって芯作りをします。

  カットしたダーツ部分を張り合わせるようにして、ミシンで縫っていきます。




 バス芯と土台となる芯とを一つにしていきます。胸のボリュームを形成する大切な作業です。






 左手で芯を丸めながら、ハ刺していきます。


 ハ刺しが終了したら、胸のボリューム感を確認します。この芯はまだこの時点で、一切アイロン掛けされていません。 アイロンワークに頼らず、芯が一人で形を維持することが大切です。この芯はこれからたくさんの工程を経て服になり、お客様が袖を通した時に体にフィットしなければなりません。

  服作りの第一歩、芯据えです。服作りにおいてすごく重要な作業の一つです。                                                 ミラノのサルト  井上 勇樹